松尾宗弘(療術師)
西暦2000年ごろを思い出してみると、ちまたに接骨院・整骨院が、こんなにあったでしょうか?
と、書いているのは2019年です。この十何年かで、接骨院・整骨院が、ものすごく増えました。
さて、接骨院・整骨院を開いているのは、柔道整復師です。これは国家資格です。骨折、捻挫を初めとする、筋骨格系の故障の処置を得意とします。「柔道整復」師の名称から、想像できますね。
では、接骨院・整骨院が増えたという事は、骨折や捻挫をする人が、この十何年かで、それだけ増えたからなのでしょうか?
いえ、そんなはずがありません。接骨院・整骨院は、いま多すぎるのです。需要をはるかに上回る供給体制になっています。
ところが、あるとき接骨院・整骨院では保険が使えるようになり、通い易くなりました。だから人が集まっているだけなのです。
しかし実は、接骨院・整骨院で保険が適用される症状は、限られています。保険が適用される治療方法も、限られています。
その限られた症状を抱えて接骨院・整骨院に行く人は、限られた割合でしかありません。
それ以外の人たちは、たとえばマッサージを受けたりするのです。こんなものは保険適用ではありませんが、接骨院・整骨院は、保険が使える治療をした事にしてしまって、患者からは治療費の三割だけもらう(もちろん七割は後で保険から支払われる)のです。
これだけで不正と言えますが、さらに。
そもそもマッサージは、あん摩マッサージ指圧師の仕事です(これも国家資格です)。免許が違うのです。どだい、柔道整復師が業務としてマッサージなど、してはならないのです。
こういう事を、患者の皆さんも知っておいてくださいね。そして接骨院・整骨院で、違法な施術を要求しないでくださいね。
要求されても、違法だからと断ってしまう、良心的な院もあると思いますが。
私ですか?
私は「療術師」という立場です。
私が療術を学んでいた頃、仲間の一人が、「早く療術も免許にならないかなぁ」と言いました。
しかし私は、「免許だと、技術に対する免許だから、限られた技術しか使えなくなるよ。新しい技術を採り入れる事が、出来なくなるよ」と言いました。
すると彼も、「それもそうだなぁ、それは困るなぁ」と同意しました。
そう。療術は免許ではないのです。だから療術師は、鍼も打てませんし、指圧も出来ません。
しかし、鍼に替わる技術も指圧に替わる技術も、持っています。のみならず、鍼では出来ない施術も指圧では治せない症状を治す事も、療術師には出来るのです。
療術師は、新しい技術をどんどん考案します。新しい技術をどんどん取り入れます。
免許という名の縛りが無い事は、大きな利点なのです。
柔道整復師の話に戻りましょう。
良心的な接骨院・整骨院では、保険的適用の施術は「しない」ところもあります。
意外ですか?
でも、「しない」理由を聞けば納得できます。
それは、ズバリ、効果が無いから、です。
いくら患者の経済的負担が小さいからと言っても、効かない施術をすれば、患者にとっては 100% が無駄ですよね。
それより、料金は高くても、ちゃんと効く施術をするべきだ、という訳です。
そういう院の柔道整復師は、主に療術師が対象のセミナーに参加したりします。新しい技術を採り入れよう、という事ですね。
そんな柔道整復師は、事実上、私と同じ療術師なのです。全額自己負担の治療をする、という意味でも。
©松尾宗弘